2004年11月6日午後4時頃、横川の路地に労務者のような質素な上着を着た老人がギターケースを持って立っていました。まさかと思って近づくと、それがかの高田渡さんでした。その夜、横川シネマでライブ予定だったので、少し話かけました。夜のライブも観て、その後出待ちをしていたら、幸運なことに順番に楽屋に入れていただき、サインやら写真やら握手やらで、当時熱狂的なファンであった私には信じられない時間でした。
その5か月後、渡さんは急逝。その直前のライブドキュメンタリーが横川シネマで上映されたので、今晩鑑賞したわけです。平日夜で4人しかいない会場でしたが、13年前あのステージの上で唄っていた渡さんの姿がスクリーンから飛び出してきたようでした。
印象深いのは中川イサトさんが言っていた、「彼の唄は人に聞かせようとしていない」ということです。淡々と何気ない日常を切り取った言葉の詞を唄い、あとは自由に解釈してくださいというスタンス。これこそが、フォークソングつまり民衆の唄なんでしょうね。よくある、俺の歌や主張を聴いてくれ!ではない。もしかすると高田渡という存在自体がひとつの価値観の主張なのかもしれません。これからもずっと私の憧れだと思います。